【犬の低アルブミン血症】タンパク喪失性腸症を獣医師が解説します。

タンパク喪失性腸症というのは、腸からのタンパク質喪失が起こる病気の総称で、一つの病気を示す言葉ではありません。

どんな病気?まずは大まかに解説

低アルブミン血症、タンパク喪失性腸症の犬は、概ね体重が減ってきます。ときに、腹水がたまり、ときに下痢や嘔吐が見られます。

どのようにして診断するの?

体の中にあるタンパク質には、アルブミンとグロブリンというものがあります。このタンパク喪失性腸症で失うのは、主にアルブミンですが、グロブリンが失われることもあります。

血液検査でわかります。血液検査で、総タンパク質(TP)アルブミン(ALB)グロブリン(GLOB)を測定します。そして、尿中にタンパク質が漏れ出ていないかも調べます。タンパク喪失性腸症とは、一つの病気を示すわけではなく、いくつかの病気の総称ですので、その内訳、つまりは、何の病気で血液中のタンパク質が減ってしまっているのかは、その後の検査で調べることになります。まずは、タンパク喪失性腸症なのか、どうかについて、血液検査を行います。

タンパク質が失われるのは、口、食道、胃、小腸、大腸ですが、最も多いのは小腸で、口や食道が原因になることは稀なことです。そして、胃や大腸の病気が、タンパク喪失性腸症を起こすこともありますが、多いことではありません。

では、小腸にどのようなことが起こって、タンパク質、特にアルブミンが血液中から現象するのでしょうか。犬のタンパク喪失性腸症を起こす主な原因は下のとおりです。

消化管内寄生虫、特発性炎症性の消化器疾患、感染性消化器疾患、原発性腸リンパ管拡張、腫瘍性消化器疾患、消化管潰瘍、出血性胃腸炎、慢性的な腸閉塞、副腎皮質機能低下症

消化管内寄生虫は、検査でわかることもありますし、このような場合には、検査でわからなくても、まずは駆虫薬を与えることはやり過ぎではありません。タンパク喪失性腸症を起こす可能性がある寄生虫には、鉤虫や吸虫があります。

特発性炎症性の消化管疾患

リンパ球プラズマ細胞性腸炎、好酸球性腸炎、肉芽腫性腸炎があります。これらの診断には、病理組織学的検査が必要です。そのためには、試験的開腹手術、内視鏡、腹腔鏡補助下による生検が必要です。

感染性消化器疾患

ヒストプラズマ症、組織球性潰瘍性結腸炎などがありますが、これも組織生検が必要です。

腫瘍性消化器疾患

リンパ腫、腺癌などがあります。これらの診断にも病理組織学的検査が欠かせません。

消化管潰瘍

薬剤、腫瘍、高ガストリン血症、高ヒスタミン血症症候群があり、病歴、血液検査、組織検査で診断を行います。

どのような犬がタンパク喪失性腸症になるのか?

どのような犬種にも、どのような年齢でも発生しています。タンパク喪失性腸症の素因をもつとされる犬種の中には、ヨークシャーテリアがあります。

症状

一般的なものは、体重減少です。その場合、食欲低下も合わせて見られることがあります。全ての犬に見られるわけではありませんが、下痢や嘔吐、ときに、吐血が見られることもあります。そして、下痢は、小腸性下痢であることが多いために、ある程度量の多い、水っぽい下痢をすることがあります。

腹水が見られることもあり、この場合には、お腹が膨らんだり、手足が浮腫んだりします。この腹水の影響で、胸が圧迫されて、呼吸の様子に変化が見られることもあります。

あまり症状を見せることなく、血液検査で偶然にも低アルブミン血症が見つかる犬もいます。その場合でも、さらなるタンパク喪失を防ぐために、原因追求のために検査を行ったり、治療をしたりします。

治療

タンパク喪失性腸症の治療をどのように行うかは、その基礎疾患によって決まります。異物や腫瘍が認められた場合には、外科的介入、すなわち手術が必要になります。そして、異物であれば、そのまま回復することもありますし、腫瘍であれば、手術後に化学療法が必要なこともあります。

炎症性腸疾患(IBD)や、リンパ管拡張症であれば、主な食事を療法食に切り替えたり、プレドニゾロンや免疫を調節する薬を使うことが一般的です。そして、食事内容の変更は、炎症性腸疾患(IBD)でも、リンパ管拡張症でも重要ですが、どのような食事が選択されるかと言うと、まずはタンパク質原料として、これまで与えたことがないタンパク質を選択するか、加水分解タンパク質を選択するか、そして、低脂肪食を選択するかのおおおよそ3択です。これのどれが適しているかは、実際に与えて見なければ評価できません。

このような場合には、1回だけとか、2-3回だけといった使い方では、評価ができないために、できれば2週間ほどは続けて与えてみることが必要です。タンパク喪失性腸疾患では、適切な食事が選択できれば、すなわち、症状を改善できる食事を見つけることができれば、薬が必要なく良い経過が期待できる犬がいます。そのためには、食事が症状を改善できるものなのかどうかは、慎重に判断すべきです。1回与えただけで、症状の改善が見られなかったとして、その食事をリストから除外してしまうのは、正しい評価ではないかも知れません。もう少し食べ続けたら改善したかも知れませんので、くれぐれも食事選びは慎重にしてください。

犬に合った食事が見つかると、薬いらずで、安定した生活ができる場合があります。しかし、多くの犬は、薬の量を調節しながら、定期的な検査で病状を把握することになります。

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