【犬の拡張型心筋症】突然死が起こることがある病気を獣医師が解説します。

犬の心臓が大きくなることがあります。下図の左にあるのが、普通の心臓だとしますと、中央にあるのは拡張型心筋症の心臓で、右にあるのが肥大型心筋症の心臓です。

拡張型心筋症は、心臓の壁が薄くなり、心臓もかなり大きくなります。

肥大型心筋症は、心臓の壁が厚くなるもので、心臓そのものの大きさはやや大きくなる程度です。

拡張型心筋症は、犬にも猫にも見られますが、主に犬で、猫では犬ほど多くは見られません。

肥大型心筋症も、犬と猫に見られますが、ほとんどは猫で、犬では極めて稀です。

今回は、犬の拡張型心筋症についてのお話です。

拡張型心筋症の犬は、最終的にどうなるの?

拡張型心筋症の犬の予後は、あまり良いものではありません。平均的な生存期間は、6か月から2年ほどです。これは、病気の進行の速さにもよりますし、病気がどれくらい進行ところで発見できたか、そして年齢や性格、などなどいろいろなことが絡みますので、平均生存期間にもかなりの幅が見れらることになります。そして、無症状であれば、長期間良い状態を維持できます。また、最終的には突然死が起こることがあります。

拡張型心筋症は治るの?

残念ながら、現在拡張型心筋症を治す方法はありません。

お薬を飲ませるなど、内科治療を行なって、できるだけ良い状態を保てるようにすることが最善です。

心筋症とは、心臓の筋肉に起こる病気です。そして拡張型心筋症は、心筋症の最も一般的なものです。拡張型心筋症は、大型犬によく見られる病気です。大型犬とは、ドーベルマンピンシャー、ボクサー、アイリッシュウルフハウンド、グレートデン、ジャーマンシェパード、そして、大型犬以外では、コッカースパニエルにも見られます。

どのような症状が見られるの?

運動不耐性、食欲不振、体重減少、咳、呼吸困難、速い呼吸、失神、突然死

運動不耐性に気づくのは、ちょっと難しいかも知れません。これまでできていたことが、できなくなります。これまでよりも疲れやすくなったりもします。運動がこれまでのようにできなくなったり、全体的な運動の量が減るというイメージでいいと思います。お散歩でも、休憩なしで行けていた距離が、休憩を取らないと回れなかったり、走っていたところを走らなくなったりもします。

食欲不振は、そのままですが、気づけない程度に食欲が減ることもあります。ときに、本当に好きなものだけしか食べなくなることもあります。そして、その好きな食べ物だったら結構食べることもありますから、初めのうちは食欲が落ちているようには見えないかも知れません。それでもこのような場合には、だんだんと体重が減ることがありますから、体重測定は大切です。

食欲がありそうで、食べる量が減っていないのに体重が減ることがあります。大型犬の体重測定は、ご自宅では難しいかも知れませんが、1週間に1回くらいは測定されると良いと思います。ご自宅でできる健康診断です。

咳は、ある程度心臓の大きさが大きくなってから見られることがあります。拡張型心筋症の初期の症状ではありません。大きくなった心臓が、気管を圧迫することでも起こります。ときに、寝起きや、運動の開始のときに咳をすることがあり、それから咳をする回数がだんだんと増えていきます。

呼吸困難は、拡張型心筋症に続く肺水腫でも起こることがあります。特に、ご自宅で寝ている時の呼吸数を数えて見てください。1分間に何回の呼吸をしているかを記録することをお勧めします。起きている時の呼吸数は、いろいろな場面でかなり変動がありますので、あまり参考にはなりません。しかしながら、寝ている時の呼吸数は心臓の病気がある犬の場合、とても大切で、呼吸のしやすさがよくわかります。これも、できるだけ穏やかそうな呼吸で数を数えてみてください。

大型犬が突然に失神した場合、最も疑うのは心臓の病気です。いくつか検査をしてみないと、その失神の原因を知ることは難しいですが、拡張型心筋症と診断されると、これが原因と考えてよいと思います。

そして拡張型心筋症の犬は、突然死をすることがあります。

大型犬の散歩は、結構大変ですから、ときに自転車で引っ張る方もありますが、このようなときに無理な負荷が心臓にかかって突然死に至ることもありますよ。拡張型心筋症とわかっていれば、このような無理なことはされないと思いますが、わかっていない場合、まだ診断ができていないとか、症状が軽くて病気とは思わなかったとか、そのようなときに起こりそうです。

拡張型心筋症に似たような病気(鑑別診断リスト)

タウリン欠乏による心筋炎、慢性変性性弁膜症、炎症性心筋炎、感染性心筋炎、心タンポナーデ、犬糸状虫症(フィラリア症)

治療

先にもお伝えしたように、治すことはできません。しかし、良い状態をできるだけ維持するためには、薬を飲ませることが必要です。それでも悪化はしますし、突然死が起こるもともありますが、場合によってはかなり長い間、良い状態を維持できます。

治療薬は、大型犬に使うということで、それなりに高額になることもあります。

必要な検査

犬の拡張型心筋症では、まず診断のための検査もありますし、その後、病状を把握するための定期検査もあります。

身体検査、胸部のX線検査、心臓の超音波検査、心電図検査、血圧測定、ときに血液検査を行います。

エピソード

超大型犬で、拡張型心筋症になった犬を診察していました。あまり多い病気ではありませんし、東京都心で大型犬を飼われている方は少ないので、診察をする機会は多くはないのですが、その中からの体験談です。

飼い主さんは、定期的に来院されて様子のご報告を受けたり、定期検査を行ったりを1年以上続けました。お薬もしっかりと飲ませていらっしゃいましたが、この犬も最後の時は突然に訪れました。しかし、それまでは、定期検査と治療を続けて、特段外観からは異常は見られない期間が長かったと思います。健康寿命と言って良いのかは難しいところですが、薬に治療のみで入院は1日もなく元気(み見えた)日々が長かったと思います。