【犬のアトピー性皮膚炎】舌下免疫療法を獣医師が解説します。

舌下免疫療法

舌下免疫療法は、アトピー性皮膚炎の犬の治療に使う最新の治療法です。

まずは、舌下免疫療法のポイントから

  1. アレルギー検査の結果に基づき、アレルギーの原因となる抗原液を犬の口の中に滴下します。
  2. 滴下する量や回数は、決まったスケジュールに従います。
  3. 効果が現れるまで、3か月から6か月かかります。
  4. 治療を行っている犬の最大60%に効果が見られます。
  5. 治療期間は、6か月から12か月ですが、効果がなければ中止、効果があればその後数年にわたって治療が必要です。
  6. 副作用はほぼないのですが、顔を痒がるとか、胃のムカつきなどの症状が見られることがあります。これらの症状は、一般的には1-2週間以内には治ります。

いかがでしょうか。なかなか根気のいる治療です。おそらくは、現在の犬の症状や治療が、この舌下免疫療法と引き換えにできるものでなければ、継続は難しいでしょうね。

私は舌下免疫療法が始まる前の免疫療法のスタンダードだった注射による減感作療法を始めたのは、今からおよそ20年前です。このときの印象を正直にお話ししますね。

20年前も、今と同様にアレルギー疾患であるアトピー性皮膚炎で苦しむ犬が多くいました。その当時には、有効な治療薬はステロイドのみでした。

脱線しながら進みますが、当時のアトピー性皮膚炎に診断は今と同じです。ご存知でしょうか、アトピー性皮膚炎の診断のための検査はありません。臨床症状と言われる犬の症状や薬(ステロイド:プレドニゾロン)が効くかどうかで診断します。ここは、今でも誤解されている可能性があります。「アトピー性皮膚炎かどうかを調べるために血液検査をしましょう。」は間違いです。そのような血液検査はありません。正しくは、「臨床症状でアトピー性皮膚炎だとわかったので、血液検査でその原因(アレルゲン)を調べてみましょう。」です。

当時、アトピー性皮膚炎に効果があるとわかっているのは、ステロイドのみでした。今は、シクロスポリン、オクラシチニブマレイン酸塩が有効だとわかっています。さらに脱線しますと、ヒトで使われる抗ヒスタミン剤は、犬の痒みには効かないこともわかっています。そのような実験結果と文献が存在します。ヒトの治療に興味のある方には、獣医師が始めからステロイドを使うと、なんて乱暴な! まずは抗ヒスタミン剤からでしょう! などと言うこともあるでしょう。まあ、ご存知ないんですよね。仕方がありません。獣医学を学ばれてはいないので。

戻りますね、そこで、年間で総日数として3か月以上ステロイドを使う場合には、副作用を気にしなければならなくなります。

そこに、他の治療方法として始まったのが減感作療法です。皮内反応という検査で、アレルギーの原因を調べます。犬の横っ腹を毛刈りして、まるで碁盤の目のように、おおよそ30項目のアトピー性皮膚炎の原因と考えられる抗原の抽出液を注射します。皮内注射というものです。それを数十分待って評価します。犬は横っ腹に大きめに毛刈りをされるし、注射を30箇所もされるし、大変だったと思いいます。

当時も抗原特異的IgE検査という血液検査はありましたが、減感作療法の抗原の決定には、血液検査ではなく皮内反応で決定することになっていました。今でも基本はこれだと思いますけどね。

そこで決定した抗原液を使って治療として減感作療法をします。具体的には、抗原の希釈液をだんだんと量を増やしながら、数日毎に注射します。そうするうちに、だんだんと犬の体が抗原に慣れていくという治療方法です。

例えば、ハウスダストマイトであれば、ハウスダストマイトの抗原液を注射する訳です。(ハウスダストマイトには、アシブトコナダニとヤケヒョウヒダニがあります。)

数日毎に結構な回数の注射をして、目標はステロイドに量を減らすことですし、もっと期待したいことは、ステロイドを使わずに痒みのない状態を作り出すことです。

しかし、有効率は50%にもなりません。現在の抗原液を使った減感作療法では有効率が80%などと言われていることもありますが、まずありえません。期待値が高すぎますし、そこまで有効ではありません。

それを注射ではなく、口に滴下することで行うという治療が、舌下免疫療法です。

私が舌下免疫療法を薦めるのは次のような犬です。

  1. ステロイドをなかなか切れない(年間4か月以上に渡ってステロイドが必要)
  2. ステロイドは効くけれども、シクロスポリンも、オクラシチニブマレイン酸塩でも痒みはが止まらない
  3. ご家族の方が、かなりの労力を要して、その結果、効果がなくてもそれを受け入れることができる

舌下免疫療法は、期待をかなり低くしてのぞむべきだと考えています。

犬アトピー性皮膚炎の診断基準

犬のアトピー性皮膚炎の診断基準は、毎年のように更新されます。大枠は変わりませんが、数項目の入れ替えがあることがあります。下の項目の中から、5項目以上が当てはまり、かつ、他の痒みをもたらす病気を否定できれば、アトピー性皮膚炎の可能性が高くなります。

  1. 発症年齢が3歳未満である。(診断された年齢ではなく、痒がり始めた年齢です。症状が出始めた頃は、季節性で痒い時期があることが多いものです。)
  2. 犬が屋内で飼われている。
  3. 犬の痒みがステロイドで改善する。
  4. 慢性でかつ再発性の酵母菌感染が見られる。(これは動物病院で評価する必要があります。)
  5. 前足に痒いところがある。
  6. 耳を痒がる。
  7. 耳の縁には、皮膚炎症状が見られない。
  8. 腰の背中側には皮膚炎症状が見られない。

犬アトピー性皮膚炎のアレルゲン検査

犬のアトピー性皮膚炎という診断がついら、何がアトピー性皮膚炎の原因なのかを調べる検査をします。

犬のアトピー性皮膚炎のアレルゲンを調べる検査は、抗原特異的IgE抗体検査と呼ばれます。国内では、リンパ球刺激試験と呼ばれる検査も行われています。

この抗原特異的IgE抗体検査というものは、いわゆるアレルギーの血液検査と言われます。そして、この検査を行っている検査センターはいくつかありますが、国際的な発表や文献に一番よく使われるものは、ヘスカ社の検査です。

国内ではヘスカ社の検査ができるところが1箇所だけあります。動物病院によって、様々な検査センターに検査を依頼するはずですが、ヘスカ社、または、動物アレルギー検査株式会社の検査が高精度です。

私は、その他の検査センターには依頼したことがありません。

そして舌下免疫療法は、検査の結果で陽性と出た抗原液を使います。その舌下免疫療法の抗原液を作って提供してくれるのが、ヘスカ社です。

私が20年ほど前に皮内反応の液や、減感作療法の治療液を購入していたのは、アメリカのグリア社というところでした。今は、STALLERGENES GREER社と名前が変わっており、注射で行う減感作療法の液と、舌下免疫療法に使う液を購入することができます。

ただし、アメリカの会社から購入するのは、やや難しいものがあります。使用期限が短いものがありますので、ある程度使うものではないと個人輸入ではむしろ割高です。そして代理店もありませんから、個人輸入の場合には、ご自身で直接英語でのやりとりを行い、国内に到着後には、税関や農水省とのやりとりが必要です。

やはり、かかりつけの動物病院に相談されるのが良いですね。

舌下免疫療法は、覚悟を持って始めなければ、全てが無駄に終わり治療だと思います。そして、成功率は最高でも60%です。しかも、ほぼ犬の生涯に渡る治療が必要です。

しかし、ステロイドしか方法がなく、副作用の心配があるならば、舌下免疫療法は明るい光に違いありません。

東京都にお住まいなら、日本橋動物病院でも取り扱いがあります。