【犬の股異形成】股関節形成不全とも言われる病気。獣医師が解説します。

股異形成、股関節形成不全

成長段階で起こる股関節異常です。どのような犬でも起こりますが、中型から大型の犬に多く、日本ではゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリバーに多く見られます。

股異形成、股関節形成不全はどのような病気?

突然ですが、右手でグーと作って、左手でパーを作ったとき、そのパーでグーを包むようにした場合、これが股関節の形です。パーが寛骨臼と呼ばれる骨盤側で、グーが大腿骨頭と呼ばれる太ももの骨の股関節側です。

正常な股関節は、このグーとパーがしっかりと関節しているのに対して、股異形成、股関節形成不全の場合には、グーとパーがゆるゆるになっていて、互いにガチガチと当たるために、形の変形や関節炎、そして脱臼や亜脱臼が起こることがあります。そして、この変形は通常、左右ともに起こります。

股異形成、股関節形成不全は、生まれてから発症するために、生まれてすぐにはこの異常は認められないことが多いものです。

股異形成、股関節形成不全の症状

股異形成、股関節形成不全の犬の特徴は、その歩き方にあります。腰を振るようにして歩きます。モンローウォークと呼ばれる歩き方をします。これは、股関節の緩みが、歩くときに痛みをもたらすために、その痛みを軽減するように歩くためです。

このような疼痛が症状として見られるのは、生後4か月ごろから1歳くらいが多いですね。私は、生後6か月の股異形成、股関節形成不全のラブラドール・レトリバーが、酷い疼痛で歩行が困難になっており、後ろ足の筋肉が痩せ細ってしまっていて、これ以上痩せてしまうとその後の成長に大きくマイナスになるような状況を見たことがあります。両側の股異形成、股関節形成不全があり、両足ともに脱臼をしていました。

運動が楽しい盛りの成長期にとてもかわいそうな姿です。そこで、手術をすることにしました。この時期に行うことができて、できるだけ早期の運動再開をしなければなりませんでしたので、大腿骨頭切除と呼ばれる術式を両側に行い、さらには、女の子であったために、不妊手術も同時にして欲しいとのご家族の希望があったので、全てを1度の手術で行ったことがあります。

大腿骨頭切除を行ったこのラブラドール・レトリバーは、その後順調に運動力を取り戻し、成長期という時間のメリットを生かし、やせ細っていた太腿の筋肉はみるみる間に丈夫になって行きました。今では、ジャンプやダッシュを含め、不自由なく運動ができるようになっています。

大腿骨頭切除の場合、筋力の回復は正常犬の80%ほどだとされています。しかし、この80%が運動の場面でどれほどのマイナスかは不確かです。何も不自由がないように見えるのは、ひいき目だけではないと思っています。

股異形成、股関節形成不全の原因

遺伝的要素があることは知られています。従って、股異形成、股関節形成不全が見られた犬は繁殖に使わないようにするのが倫理的です。しかし、犬の股異形成、股関節形成不全の発生には、まだ不明な事も多く、遺伝的要素に加え、いろいろな環境的な要素も関わっています。

股異形成、股関節形成不全の診断

診断は、歩き方、オルトラニサインと呼ばれる股関節の屈曲テスト、そして単純X線検査です。

股異形成、股関節形成不全の治療

痛みの緩和だけなら薬による治療がありますが、これだけでは解決しないことがほとんどです。

主な治療は外科手術です。最も多く用いられている手術手技は、大腿骨頭切除(FHO)です。術式も容易で整形外科手術では、入門編と呼ばれるものですが、そもそも整形外科を行っていない動物病院が多いために、この手術ができる動物病院を探す必要があるかも知れません。

他には、股関節全置換術(THR)です。いわゆる人工股間です。術式も難しく、私は行ったことがありませんし、これについてはトレーニングも受けていません。

骨盤三点骨切り術という術式もありますが、これを実行できるタイミングは限られており、上の2つの術式よりも実施される機会は少ないはずです。

股異形成、股関節形成不全の予後

適切な手術を受けて術後成績が良ければ、不自由のない運動ができるようになります。飛んだり、ジャンプしたり、走り回ったり、健康な動きを獲得できるはずです。