【犬の角膜潰瘍】トリミング後でも起こる犬の目に傷。獣医師が解説します。

犬の目に傷がついて、動物病院で緑色の蛍光色素を使った検査を受けた犬は多いと思います。そして、目薬で治るのが一般的です。今回は、角膜潰瘍のグレード1を掘り下げます。

この傷ですが、本来は犬の目には日常的に傷がつきます。その日常的な傷は、潰瘍というまで深いものではありません。それが、修復機能によって大したことないうちに治るのです。その修復がうまくいかない場合、傷が傷のまま残ります。正しくは、いつもはわからないうちに治るのに、潰瘍と呼ばれるほど深い傷になると、修復に時間がかかることがあるということです。もちろん傷が大きければ、単純に治るのに時間や日数がかかることはありますし、ときに手術が必要なこともあります。

日常的に目にできる傷の修復が始まるのは、傷ができてから10分程度です。上皮化と呼ばれる修復過程が開始されます。ショボショボするなどして、目を痛そうにしているということは、傷があるからというよりはむしろ、傷の修復がうまくいっていないからということになります。この傷は、角膜潰瘍であれば、10分後から上皮化が始まり、浅いものではかなり早い段階で傷が埋まります。そして、やや大きめの潰瘍ですと、5-7日ほどかかって修復されることがあります。

トリミングに関係なく起こることがほとんどですが、トリミング後に起こることもあります。

ときに、トリミングの後から目をショボショボし始める犬がいます。そして、トリミングでは何もなかったのに、うちに帰ったら目をショボショボさせ始めた経験をお持ちの方は多いと思います。

なぜトリミングの後なのでしょうか?

これには、いくつかの原因が考えられます。一つは、目の表面の保護膜である脂質層、水分層、ムチン層がシャンプーやシャワーなどによって流されて、目の表面が無防備な状態になることです。ここに日常的な小さな傷ができると修復に時間がかかったり、その間に痛がってショボショボすることになります。そして、動物病院に行くと、緑色の蛍光色素(フルオルセイン)をつかた検査を受けて、傷があるという話をされることになります。

傷!!これはさっき行ったトリミングで傷つけられたのだ!!と、いうことにならないとも限りません。

そして、シャンプーやシャワー以外にも、さらに傷を治りにくくしているものがあります。それは、涙の量の減少です。ヒトも緊張して口が渇くという経験をされた方もあると思います。犬も同様に、何かしらの環境の変化や緊張で、涙の量が一時的に減ることがあります。

シャンプーやシャワーで角膜上皮の上にある脂質層、水分層、ムチン層が流され、さらには涙の量が少なくなることで、日常的に起こっている目の表面の傷の修復が普段どおりにはいかなくなります。

これがトリミング後の角膜潰瘍の概要です。

では、誰が悪いのか?多分、誰も悪くはないですよね。トリマーさんを責めたくなる方の中には、シャンプーやシャワーが目に入らないようにすべきだという意見もあるかも知れませんね。でも、犬の場合には、目の周りにも毛がある訳ですから、目に完全に入らないようにすることはほぼ不可能です。ヒトに例えると、鼻が絶対に濡れないように洗顔するようなものですから。できなくはないかも知れませんが、常に動いたり、不意にブルブルッとやったりする訳ですから、かなり困難でしょう。

角膜潰瘍は短頭種に多い

角膜潰瘍は、どの犬にも起こりますが、短頭種と呼ばれる犬種に多く見られます。短頭種に多いのには理由があります。実は犬の目の大きさは、犬の種類を問わず、ほぼ同じ大きさです。しかし短頭種は、眼球が収まっているくぼみ(眼窩)が浅いのです。すると何が起こるかと言いますと、やや目が飛び出すことになります。すると瞬きをしても、目の中央に涙が乗りにくいのです。涙は、目の表面の傷を治すのにとても重要な働きをします。ですから、短頭種に起こりやすい角膜潰瘍は、まばたきをしても涙が残りにくい目の中央に起こりやすいのです。

通常の角膜潰瘍の原因となるものには、次のようなものがあります。

睫毛異常、眼瞼内反症、外傷、異物、化学物質、細菌、ウイルス、真菌、角膜の乾燥(乾性角膜炎など)、免疫異常、角膜上皮の発育不全

角膜潰瘍とは

角膜潰瘍の定義としては、角膜上皮が欠損した状態をいいます。様々な程度のものがあります。角膜は、いくつかの層に分かれていて傷がどの深さまで至っているかでグレード分をすることがあります。そして、多くはグレード1か2で、これは、角膜基底膜と呼ばれる角膜上皮欠損です。角膜基底膜とは、比較的浅いところにある膜のことです。

治療は?

角膜潰瘍のグレード1の治療は、抗菌薬点眼と、ヒアルロン酸ナトリウム点眼を基本とします。ときに、自家血清と言って、自分(犬)の血液から血清を分離して点眼薬とすることもあります。この自家血清は、作ってから48時間が使用期限ですが、効果的な治療薬になります。

グレード1の角膜潰瘍であれば、通常は1週間程度でしっかりと治りますし、傷が浅ければもっと早くに治ります。ときに、目をショボショボさせて涙もいっぱい出ていたけど、すぐに連れてこれなくて、という飼い主さんがあります。今はショボショボだけは治りましたと。傷でも入ったのかも知れませんね、と、フルオルセインテストをしますと、陰性という結果になることがあります。これは、傷(角膜潰瘍)ではなかった可能性もありますし、角膜潰瘍だったけれども、比較的早い段階で治ってしまったために、このテストではもう陰性になる程に回復してきているということも考えられます。

私もよく遭遇する病気です。そして、他の獣医師もよくみると思います。しかし、上のトリミング後の角膜潰瘍について、しっかりとした説明が足りないことで、飼い主さんとトリマーさんの関係を悪くすることもありますので、そうならないようにできるだけ病態を把握して、丁寧な説明をしたいと思っています。