【犬の外耳炎】何度も繰り返すけど治るの?獣医師が解説します。

外耳とはどこのこと?

診察をしていると、外耳炎?中耳炎?などと、どっちだったっけ?と質問される飼い主さんは多いですね。ヒトでは、中耳炎が一般的に耳の病気ということでしょうから、外耳炎という言葉に慣れていらっしゃらないということでしょう。

耳の穴から入って、その奥には鼓膜があるわけですが、そこまで、すなわち、耳の穴から鼓膜までを外耳と言います。そして、鼓膜で行き止まりです。ちなみに鼓膜の奥が中耳で、多くの場合、中耳炎とは、耳の穴の方から何かが起こるのではなく、鼻から耳に繋がる耳管の方から起こる炎症です。

外耳炎とは?

そのままです。外耳の炎症です。この原因には様々なものがあります。異物、腫瘤(耳の中のデキモノ)、ダニなどの寄生虫、アレルギー疾患、角化異常、代謝異常は、外耳炎の主な原因です。これらのどれかがあると、外耳炎は起こります。注意したいのは、外耳炎は、これらがなくても起こります(後述します)。そして、細菌感染やマラセチア感染が起こりますが、これらは、主な原因に続いて二次的に感染しているに過ぎないので、細菌やマラセチアを落とす治療をしても、元の原因が残る以上は、外耳炎は治療できません。

しかし、元の原因となりうる異物、腫瘤、ダニは治すことができても、アレルギー疾患や角化異常、そして代謝異常は治るものではなく、良い状態を保つために、ある程度の頻度でのケアが必要になります。

外耳炎を悪くするもの、そして、長引かせるもの

外耳炎になりやすくなる要因があります。これらがあると、上の主な原因がなくても、外耳炎が起こり、そして長引きます。なりやすくなる要因には、気候などの地理的要因、耳が垂れていたり、耳の中に毛が多く生えている犬種では外耳炎になりやすくなります。

そして、長引かせる要因とは、外耳炎が長引いて起こる耳の皮膚(耳道壁)が厚くなったり、耳垢に関係する耳垢腺や皮脂腺の数が増えたり、これらの大きさが大きくなったりします。さらには、耳道軟骨が硬くなったり、鼓膜が破けたりします。これらは、外耳炎が長引いたことで起こるものですが、これらがさらに外耳炎の治りを悪くしますし、外耳炎を長引かせます。

犬の耳垢の検査はされたことがありますか?

外耳炎は、犬ではとてもよくみるものです。そして、耳垢検査を行って、細菌が増えていますよ、とか、マラセチアが増えていますよ、などと言われたことがあると思います。そこで、注意しなければならないことは、細菌やマラセチアが外耳炎の原因ではないということです。炎症があって、増えてはいますが、細菌やマラセチアを完全に消滅させることはほぼできません。どうぶつの保険会社によっては、診断名が外耳炎というだけではダメで、外耳炎で増えているのが細菌なのかマラセチアなのかを診断に付け添える必要があるところがあります。

そして、細菌やマラセチアに対しての薬が出されるでしょう。ときに内服薬だったり、ときに点耳薬だったりすると思います。そして、耳洗浄もよく行われると思います。これは外耳炎治療の基本的な処置です。

一つエピソードがあります。

ある犬の飼い主さんに、耳垢が多いので、耳洗浄をしますねと伝えたときのことです。その犬の飼い主さんはとても驚いた様子で、耳洗浄は止めてくださいと言われました。耳などを洗ったら余計に悪くなるからというのがその理由です。
私たち獣医師は、独自に考案した治療法を始めて試す訳ではなく、統計的にも経験的にも、成績が良い治療法を行うことがほとんどです。犬の外耳炎の場合、もし耳垢があれば、耳洗浄をこなってまずは外耳道から耳垢を取り除くことをするのが良いわけです。しかし、この犬の飼い主さんは、ご自身の印象で判断をされ、耳洗浄に待ったを掛けてこられました。

このような場合、どうするか。選択肢としては、よくお話をして耳洗浄を行うか、飼い主さんの希望のとおりに耳洗浄を行わないかですが、私はこのような場合には行いません。外耳炎は、今後も起こるこのある病気です。外耳炎が起こる犬の場合、一度きりしか起こらない犬は少なく、多くが頻度の差はあるとは言え、繰り返します。そうなると、このような飼い主さんは、耳なんか洗ったから治らなくなったと言うことが目に見えるからです。残念ながら。

治療はどうするの?

耳垢を取り除きます。

耳垢を取り除きます。多くは外耳道洗浄を行います。専用のイヤークリーナーを使って、耳垢が確認できなくなるまで繰り返し洗浄を行います。

もし、寄生虫や異物、そして腫瘤(デキモノ)があれば、取り除きます。腫瘤については、外科手術が必要なことがあります。また、外科手術で耳道内の腫瘤を取り除けたら、外耳炎が治癒することがあります。

炎症を治します。

コルチコステロイドを使います。これは、細菌やマラセチアがいても使います。通常は、細菌や真菌が存在するところには、コルチコステロイドは使わないことが多いのですが、外耳炎では、炎症や炎症によって起こっている腫れを引かせたり、ときに痛みを和らげたりする目的で使うことが多いですね。

感染に対して、抗菌薬を使います。

細菌やマラセチアに対して点耳薬を使います。ここで大切なのは、先に書いたとおりに細菌やマラセチアは、これらが増えているので使うわけですが、細菌やマラセチアは外耳炎の主な原因ではないために、これら抗菌薬だけでは外耳炎は治せません。

外科手術

ときに、どうしても治らない慢性化した外耳炎の治療として、外科手術を行うことがあります。垂直耳道切除という術式ですと、聴覚を温存できます。しかし、中耳や内耳にまで治療できない炎症や障害が及んだ場合には、中耳の一部までを取り除く全耳道切除を行うことがあります。これは、聴覚を温存できない手術手技です。

私は個人的には、幸いにも全耳道切除は行ったことがありません。垂直耳道切除で、聴覚を温存しながら治す方法を選択しています。しかし今後は全耳道切除しないと治せない慢性外耳炎にあわないとも限りません。

とにかく根気よく、付き合うしかない外耳炎もあります。ときに、どこかに犬の外耳炎を完治させてくれる獣医師を探される方があるかも知れませんが、結果、かかりつけの先生を信頼して治療を進める方が良いと思います。必要な治療はきっちりとされているでしょうから、うまく付き合うべき病気であることを受け入れることも必要です。