【どうぶつの根尖周囲病巣と歯瘻(しろう)】犬の歯周病です。獣医師が解説します。

歯髄とは?

歯の中には、歯髄と呼ばれるものがあります。いわゆる、歯の神経と呼ばれるものです。ここに炎症が起こると、1本の歯の歯髄全体に広がります。そして、歯髄壊死が起こります。

根尖周囲病巣とは?

歯髄に生じた炎症が歯髄全体に広がって、歯の先端(根っこの方)まで進むと、歯の周囲の組織にも病変を作ることがあります。これを根尖周囲病巣と呼びます。

根尖周囲病巣には、3つの型があります。根尖周囲膿瘍、根尖周囲肉芽腫、根尖周囲嚢胞です。根尖周囲病巣は、歯科用のX線検査をすることで診断ができますが、上の3つの型のどれかの区別はX線検査でも難しく、多くは口腔外科手術で採取した組織の病理検査結果で判断することになります。

根尖周囲病巣、その原因は?

根尖周囲病巣は、歯髄炎から起こるのですが、その歯髄炎の原因には様々なものがあります。私がよくみるのは、歯牙欠損と呼ばれるもので、歯が欠けることで起こる歯の神経の露出です。歯髄が露出する、いわゆる露髄です。歯髄が露出していますから、容易に感染が起こり、歯髄炎となり、これが歯髄全体に広がります。

歯髄が露出していなくても、この病気は起こります。露髄を伴わない根尖周囲病巣で多くみるのが、歯周病によるものです。歯周病でも、根尖周囲病巣は起こります。

露髄の原因になりやすい歯は、上顎第四前臼歯と呼ばれる歯で、これが欠けるのは、硬い物を噛んだときが多いですね。犬に硬いものを与えてはいけません。歯が欠ける原因になりますよ。

ときに、物に負荷を欠けると強くなると思う方があります。犬の歯は、私たちの身の回りのものに例えると、ハサミのようなものです。ハサミを強くするために石でも切ってみようかとするのに似ています。

石を切ったハサミは強くなることなく、欠けてしまうでしょう。これと同じことが起こっているわけです。また、顎を丈夫にしようと、硬いものを与える人もありますが、デメリットのが多すぎるという印象です。少なくとも、ヒトで、顎を鍛える目的で硬いものを咬む習慣はありませんよね?

どのような症状が見られるの?

根尖周囲病巣、歯瘻には、内歯瘻と外歯瘻があります。内歯瘻は、根尖周囲病巣による瘻管が口腔内の歯肉や粘膜にできたもので、これは口の中を観察してわかるものです。また、外歯瘻は皮膚に病変ができるので、見つけることは簡単です。例えば、目の下に傷のようにできたり、顎の下にできることもあります。これらを確定診断するには、やはりX線検査が必要で、そのためには、麻酔や鎮静が必要です。

歯科用のX線検査装置がない動物病院では、根尖周囲病巣の詳細を調べることは困難でしょう。もし、あなたのかかりつけの動物病院で、どうぶつの歯の処置をする場合には、歯科用にX線検査(レントゲン)が有用です。ときに、歯科用はないけど大丈夫だよと言われる場合も考えられます。これでも麻酔や鎮静が必要ですが、診断することができます。

特に外歯瘻は、はじめは何かの傷のように見えますから、まさか歯の病気とは思われないことも多く、動物病院でも判断を誤ることも稀にあるかも知れません。

どうやって診断するの?

根尖周囲病巣の確定診断は、口腔X線検査です。これで、どの歯が原因になっているかを知ることができます。

治療

基本的な治療は、原因となっている歯の歯髄と根尖周囲組織を取り除くことです。これ以外では、例えば薬を使うなどの対症療法では一時的によくはなっても、根治することはありません。治療のためには、歯内治療か抜歯が必要です。どうしても歯を残したい場合には、歯内治療、根菅治療を行います。そして、周囲組織を取り除くには、外科的な治療が必要になります。

最も確実で、その後の経過が良い治療は抜歯です。抜歯によって、食べ物を選ばなければならないことはありません。抜歯をしても、直後以外には、何でも食べることができるようになります。

ときに抜歯を必要以上に心配される方があります。とてもよくわかるのですが、歯内治療、根菅治療を行うことができるのは、限られた条件の歯になりますから、速やかな抜歯の判断もときとして必要です。