【犬の胆嚢粘液嚢腫】怖い病気です。獣医師が解説します。

犬の胆嚢粘液嚢腫

犬の胆嚢に起こる病気です。胆嚢は、肝臓で作られた胆汁を溜めてから濃縮するところで、そこから胆管を通して、胆汁が十二指腸へ送られます。胆汁は、脂肪の分解に関わります。その胆嚢の内側にある粘膜が異常に増えることで、粘液が過剰に作られると、胆嚢内には、流れにくくなったゼリー状の粘液が留まります。その流れにくくなったゼリー状の粘液が、胆嚢内、胆管に充満すると、胆汁の流れはほぼなくなり、黄疸、胆嚢炎、胆道炎を引き起こします。これが胆嚢粘液嚢腫という病気です。

とても大切なこと

胆嚢粘液嚢腫の原因には、胆石や胆泥が原因しているとも言われます。しかし、これはまだはっきりとしたことがわかっていません。胆泥が長期間胆嚢内に留まっていても、何も起こらない犬も相当数います。これは、何を示すかと言いますと、胆泥症だからと言って、胆嚢粘液嚢腫との関連性は確かめれれてはいないし、胆泥症自体が、どれほど問題のあるものかもわかっていません。つまりは、胆泥症を治療する意味は、今のところあるとは言えません。にも関わらず、胆泥症を見つけると、治療にかかる動物診療施設もあるようですし、さらには、胆泥症というだけで胆嚢摘出を行うところもあると聞きます。

基礎疾患の存在

胆嚢粘液嚢腫の基礎疾患として、甲状腺機能低下症副腎皮質機能亢進症が深く関連しているという報告があります。私が胆嚢粘液嚢腫の手術を行った犬には、このどちらの疾患も抱えている犬がいます。

胆嚢粘液嚢腫の基礎疾患とは、胆嚢粘液嚢腫が起こる犬は、もともと甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症になっていることがあるということです。

検査の結果、これらの基礎疾患を持っていることがわかれば、初めには手術後の内科治療を行います。薬を使って治療をするということです。そして、甲状腺機能低下にも投薬が必要ですし、副腎皮質機能亢進症にも投薬が必要です。

甲状腺機能低下症の犬は、甲状腺の働きが低下して甲状腺ホルモンを必要量作ることができない状態ですので、多くの場合に生涯にわたる投薬治療が必要になります。

副腎皮質機能亢進症の犬も同様です。多くの場合、生涯にわたる投薬治療が必要になります。

甲状腺機能低下症も、副腎皮質機能亢進症も、その治療の中では定期的な検査が必要です。

犬の胆嚢粘液嚢腫の確定診断

もっとも有効な確定診断検査は、超音波検査です。いわゆるエコー検査です。胆嚢粘液嚢腫が進行すると、超音波検査では、胆嚢の断面がキウイフルーツの断面のように見えます。

獣医師は、超音波検査での胆嚢の断面がキウイフルーツ→胆嚢粘液嚢腫と即時判断します。

獣医師を悩ませる手術の適期

犬の胆嚢粘液嚢腫の治療は、基本的には外科手術です。しかし、この手術のタイミングはその判断が難しいことが多く、獣医師を悩ませることがあります。

犬の胆嚢粘液嚢腫は、最悪の場合には死を招くことのある病気です。しかし早い段階では無症状です。

そして、手術での死亡率は20%という報告があります。これは、何を意味するかと言いますと、無症状で犬には見た目の変化がないけれども、手術を迫られることがあり、その手術をした場合には、死亡率が20%、すなわり5匹に1匹は死に至ることがあるいうものです。

元気な犬に見えるけれども、潜在的に怖い病気を抱えていて、早ければ治るかというと、術後の死亡率も低くはない。そんなことですので、危なくなる前に手術をする方が良いわけですが、それだからと言ってそれなりの危険が伴うということです。

ではいつ手術をするのが良いのか?

獣医師によって意見が分かれるかも知れませんが、低脂肪食や利胆薬そして抗菌薬を使っても超音波画像上で改善が見られなかったり、悪化があればできるだけ無症状のうちに手術をするのが望ましいとされます。

どのような手術をするのか?

胆嚢粘液嚢腫で行う手術は、胆嚢切除です。胆嚢を肝臓から分離して、取り除きます。ある程度難易度の高い手術かも知れません。この手術を行う動物病院がどれくらいあるのか、そのような調査はありませんが、どれだけ多く見ても半分以下の動物病院でしかできないでしょうし、もしかすると10%以下の動物病院でしかできないかも知れません。これはあくまで私の印象ですので、正しい数字ではありません。大体は正しいと思います。

手術の詳細

胆嚢はお腹の上の方、いわゆるみぞおちのあたりにあります。お腹を開けての開腹手術が一般的です。ときに、腹腔鏡を使った手術も行われますが、腹腔鏡を導入している動物病院は少なく、また、腹腔鏡があったとしても開腹手術との違いを考えると、それほどメリットが大きいとは思いません。

ちなみに、腹腔鏡を導入している動物病院は、かなり少ないと思います。日本全国に100件もないのではないでしょうか。私が診療を行う動物病院には、腹腔鏡の設備があります。それでも、胆嚢粘液嚢腫の手術は開腹で行うことがほとんどです。

犬の胆嚢は肝臓にくっついていますので、これを剥がすわけですが、これが手術のほとんどの工程です。肝臓と胆嚢には互いに行き来する動脈もありますから、これらを慎重に処理して行きます。肝臓の受動と呼ばれる作業をしますが、胆嚢摘出の場合の肝臓の受動はシンプルです。横隔膜と肝臓の間に湿らせたガーゼを必要量置くことで、肝臓がやや腹側に動きますので、それで胆嚢摘出が格段にやりやすくなります。そして、肝臓からの胆嚢剥離は、私の場合は、胆嚢の漿膜を肝臓に残す方法で行います。ちょっと細かい話ですね。

このときに役に立つのは、超音波メスやモノポーラ、バイポーラのデバイスです。しかし、もっともよい物は、術者の指かも知れません。指を使うと、肝臓も胆嚢も傷めずに、かなり迅速に剥離ができることがあります。ときに、胆嚢を肝臓から剥離するときに起こる出血に対して、私はコラーゲン使用吸収性局所止血剤という素材を使うことがあります。これは出血箇所にそっと当てるだけで次第に止血されるという素材です。ただし、勢いよく起こっている出血には向かないので、そのときには、モノポーラのスプレー凝固モードを使います。ちなみに、コラーゲン使用吸収性局所止血剤はとても高価なもので、ちょっと使うだけでも原価で数万円はかかります。

肝臓から胆嚢を綺麗に剥離できたら、次には総胆管の処理を行います。胆嚢と十二指腸は胆管で連絡するわけですが、この胆管を全て取り除くことはできませんので、一部を残します。その一部が内容物で閉塞したままですと、よくありませんので、胆管から内容物を十二指腸に押し流したり、あるいは吸引したりして、取り除きます。

術後の成功率は前述したとおりですが、数日生存すれば、その後は良好に経過します。元のとおりくらいに元気に過ごせるようになります。