【犬の前十字靭帯】損傷・断裂、どうなるの?獣医師が解説します。

Conclusion
まずは結論からお話しします。
前十字靭帯の損傷・断裂の犬の治療には、手術をしなければならないか、しなくても済むかの2パターンです。当然ですが。ほとんどの犬は手術が必要です。

手術が必要な犬(すぐには必要がなくても、近いうちに必要になる犬も含みます。)

  • 体重に関係なく、断裂、すなわち前十字靭帯が完全に切れていたら手術が必要です。
  • 体重が10kgを超えていれば、部分断裂でも手術が必要です。
  • 体重が軽め(5kg以下)でも、激しい動きをよくしたり、ソファーやベッドなどの乗り降りをよくする犬は部分断裂でも手術が必要です。(体重が軽めで前十字靭帯の損傷・断裂を起こす犬は、落ち着きがない犬が多いという印象です。)

手術をしなくても良いかも知れない犬(完全断裂は手術必須ですので、部分断裂の中で下のような犬)

  • 体重が軽め(5kg以下くらい)で痛めた足にも体重を乗せながら歩ける犬(痛めた足を床に着けずに完全に上げながら歩く犬は、手術が必要でしょう。)
  • 受傷から1週間ほどで左右の差がなく歩けるようになれば、手術は必要ないでしょう。(この場合、本当に前十字靭帯の損傷・断裂だったのか疑わしくなりますが、)
  • 体重が5kg以上でも痩せている犬は、手術を免れることがありますが、それでもあまり活発ではない犬に限ります。

どんな手術があるの?前十字靭帯損傷・断裂の治療

  • TPLO
  • TTA
  • 関節外方法

手術方法についての詳細は別記事にしまが、概要としては、関節外法というものがもっとも一般的です。そして、最も多く用いられる方法です。

しかし関節外法は、最も合併症(手術による問題点)が多いのも事実です。前十字靭帯を損傷して、歩けなかった犬が、手術をして歩けるようになるまでの時間も長くなります。

ちなみにTPLOやTTAですと、ある程度歩けるようになるまでにかかる時間は、早くて術後1日ですし、だいたい2週間以内には歩けるようになります。ただ、運動制限も必要ですから、歩けるからと言って、どんどん歩いて良い訳ではありません。

なぜ前十字靭帯が損傷・断裂するの?

これは正確にはまだよくわかっていません。しかし、前十字靭帯を構成するタンパク質は、損傷・断裂する犬では変性を起こしていることがわかっています。

つまり、前十字靭帯の損傷・断裂を起こした犬の前十字靭帯は、だんだんと質が悪くなっていき、傷んで、傷んで、最後に損傷・断裂を起こします。

これに対してヒトは、健康的な前十字靭帯が、交通事故やスポーツなどで非常に大きな力がかかって断裂します。

前十字靭帯断裂、ヒトと犬

  • ヒト:健康な全十字靭帯が、例えば交通事故やスポーツによる非常に大きな力によって断裂する→断裂する前でも健康的
  • 犬:だんだんと変性を起こして、弱くなった靭帯が、大きな力によって損傷・断裂を起こす→断裂する前にはかなり傷んでいる。

上のようなことがわかっているので、犬の前十字靭帯の損傷・断裂では、切れた靭帯をまたくっ付けるようなことはしません。なぜなら、かなり痛んで切れたのだから、繋いでも同じく切れるのが目に見えているからです。

基本的には、どのような場合でも前十字靭帯の損傷・断裂だけであって手術をすれば、ちゃんと歩けるようになるのが普通です。特別に手術を拒んだり、手術時期を延ばし延ばしにしなければ良い予後が期待できます。

ただし、この前十字靭帯の変性症は、片足だけに起こるものではありません。両足に同様に起こっていて、たまたま片方の足の前十字靭帯が損傷・断裂しただけです。そして2年以内にもう片方の足の前十字靭帯を損傷する確率は50%を超えます。