【犬の椎間板ヘルニア】痛みだけ?麻痺もある?獣医師が解説します。

犬の椎間板ヘルニア

症状は、痛みだけか、フラフラ歩くような麻痺があるか、歩けないほどの麻痺まである、そして痛みがわからないかです。

歩ける犬の9割、歩けない犬の5割くらいは、手術なしでも改善するという報告があります。痛みだけなら、歩ける犬ですよ。しかし、手術が必要になるかもしれないという心算は持っておくべきです。そして、改善するまでの時間は、それぞれですが、痛みだけの犬や歩ける犬の場合、おおよそ5-7日間ほどが多いですね。もちろん例外はありますよ。

椎間板ヘルニアを起こした犬の飼い主さんからいただく質問です。

突然なるのですか?昨日まで元気だったのに。

違う病気ではありませんか?

これらの質問に共通しているのは、まさかうちの犬に限って、ということでしょう。はじめは信じたくはない訳です。それほど、椎間板ヘルニアでないことを願う病気ってことでしょうね。獣医師が間違っているのではないかと思うほどにね。

本題に戻りますが、それほど、痛みだけの場合には、何が起こったのだろうと心配される飼い主さんは多いですね。特に、抱っこしようとして、ギャンと鳴かれたり、立ったままジーとして動かなくなってしまったり、伏せたまま動かなくなってしまったりすると、いろいろな想像をされるようです。

本当に色々と想像されますね。

抱っこしようとして、ギャンと鳴いたら、そのときに触っていた腕が痛いのだろうと思われて、腕が痛いみたいだと言って来られる方もいらっしゃいます。そして、そのような飼い主さんに、最終的に腕ではないこと、そして、椎間板ヘルニアの疼痛であることをお伝えすると、腕が痛いに違いないと最後まで頑張る方もいらっしゃいますし、ご納得いただける方もありますし。

背部痛は触診でしか分からずに、通常のレントゲン検査では十分に痛み部位の特定は困難です。つまりは、客観的に椎間板ヘルニアだと証明する事象が少ない訳です。触診上の異常くらいしかないかも知れません。それを信じていただくしかありませんが、中には極めて分かりやすい疑いの目を向けてくる人もいますね。笑

はい、真面目に話を進めますね。

椎間板ヘルニアとは、椎間板が脊髄神経を圧迫する病気です。椎間板とは、首から骨盤まで続く背骨の一つ一つの間にある、骨にかかる衝撃を和らげるためのものです。

椎間板は、均一な構造ではなく、梅のように、種と実のような構造になっています。

種を髄核と言って、実を線維輪と言います。

髄核、いわゆる種が脊髄神経を圧迫するのをHansen I型といいます。ハンセン1型です。当然ながら、種が実を壊して飛び出す訳です。

そして、線維輪、いわゆる実が脊髄神経を圧迫するのをHansen II型といいます。

犬の椎間板ヘルニア Hansen I型

ダックスフンド、ビーグル、そしてコッカー・スパニエルなどは、軟骨異栄養犬種と言われて、髄核が脱水したり変性したりします。この髄核(梅の種)は、もともと水分を保持しているものなのですが、その保持ができなくなり、脱水を起こす訳です。この変化はいつ頃から起こるかと言いますと、なんと1歳を過ぎた頃からです。

このように、髄核が突出しますから、症状の発症は急に起こりますし、突然の激しい痛みや軽いものから重い麻痺までも起こることがあります。

そして、この突出した椎間板物質、髄核が吸収されますと自然に治ることがあります。

犬の椎間板ヘルニア Hansen II型

これは線維輪(梅の実)が厚くなって、脊髄神経を圧迫するために、だんだんと痛くなることもあり、慢性的で進行性の麻痺になることがあります。この場合、完全な麻痺ではなく感覚の残る麻痺になることが多く、この飛び出した線維輪(梅の実)は、吸収はされないので自然に治ることはありません。

犬の椎間板ヘルニアの診断

その前に、椎間板ヘルニアなのか違うのかという問題があります。椎間板ヘルニアと同じような症状を見せながら実は違う病気もあり得るので、獣医師は鑑別診断リストというものを作り、椎間板ヘルニアに見えるけど違う病気ではないかと検査で確認をしていきます。

今回は、鑑別診断については置いておきますね。他の記事でご紹介します。

椎間板ヘルニアをしっかりと調べるためには、MRIを置いて他にはありません。

その他には、単純X線検査、X線脊髄造影検査、CT検査、CT脊髄造影検査があります。

単純X線検査

骨を見ることが中心になります。椎間板ヘルニアに関係する椎間板や脊髄の診断は困難です。

X線脊髄造影検査

脊髄の輪郭を見ることができます。そして、脊髄の髄膜の外の病気、髄膜の内の病気、髄内病変をみることができます。また、Hansen I型、II型や、進行性脊髄軟化の存在も示すことができます。

CT検査

椎間板ヘルニアに関しては、検査できる内容に限界があります。骨や、石灰化した病変をみることができます。脊椎(骨)の異常や、椎間板ヘルニアでもHansen I型などが分かります。

しかし、椎間板ヘルニアのHansen II型は診断できませんし、Hansen I型でも椎間板が石灰化していないと分かりません。ですので、椎間板ヘルニアをCT検査するのは、どうしてもCT検査装置しかない場合に限られると思います。

MRI検査

脊椎(骨)、脊髄(神経)、椎間板の全てを検査できます。この検査では、かなりのことが分かりますので、椎間板ヘルニアを疑う場合には、何を置いても有用な検査になります。

しかし、基本的にMRI検査は、手術の準備のための検査です。手術をしないときに検査をすることは少ないですね。

例えばですが、手術をするまでもないけど、MRI検査でどこに病変があるかを知りたいと言うことで検査をしたとします。それから数か月なり、1年なりの時間の経過があり、椎間板ヘルニアが再発したとします。その時には麻痺もあり、手術が必要という状況では、再度MRI検査をする必要があります。なぜなら、椎間板は脊椎の間であれば、首の第一、第二頚椎以外には全てにありますから、前回と同じところが椎間板ヘルニアを起こしたとは断言できません。つまりは、再検討が必要になります。

犬の椎間板ヘルニアの重症度評価

犬の椎間板ヘルニアは、軽いグレード1から、重いグレード5までの評価基準があります。

グレード 1

強い痛みがみられます。

グレード 2

歩行可能な不全麻痺(痛みはわかる。力は入るが弱い)

グレード 3

歩けない不全麻痺(痛みはわかる。力は入るが弱いか、力が入らない)

グレード 4

歩けない不全麻痺(痛みはわかる。力が入らない。自分で排尿できない。)

グレード 5

歩けない全麻痺(痛みがわからない。力が入らない。自分で排尿できない。)

犬の椎間板ヘルニアの予後判断としての改善率

グレード 1の改善率

治療には、運動制限が必要です。手術ではない、内科療法に90%が改善します。外科治療を行なった場合には、90%以上が改善します。

グレード 2の改善率

治療には、運動制限が必要です。手術ではない、内科療法に90%が改善します。外科治療を行なった場合には、90%以上が改善します。

グレード 3の改善率

治療には、運動制限が必要です。手術ではない、内科療法に50%が改善します。外科治療を行なった場合には、90%以上が改善します。

グレード4の改善率

治療には、運動制限が必要です。手術ではない、内科療法に50%が改善します。外科治療を行なった場合には、90%以上が改善します。

グレード 5の改善率

治療には、運動制限が必要です。

外科治療を行なった場合

痛みがわからなくなってから12時間以内に手術をするとおおよそ50%が改善します。

痛みがわからなくなってから48時間以内に手術をするとおおよそ40%が改善します。

痛みがわからなくなってから36時間以内に手術をするとおおよそ25%が改善します。

しかし、グレード 5では、このデータは更新されつつあります。もっと良い結果が出始めています。

犬の椎間板ヘルニアの治療

内科治療外科治療があります。

内科治療

ケージレストとお薬を使います。ケージレストとは、犬が1-2歩くらいしか歩けないくらいの小さめのスペースに置くことで、基本的にこの空間で過ごさせます。

ケージレストはまずは2週間程度行います。多くの飼い主さんは、椎間板ヘルニアのことよりも、自由に動かすことができない犬を不憫に思われ、いろいろな理由をつけてケージレストを解除しようとされますね。例えば、犬にストレスだからとか、かわいそうだからとかです。つまりは、治療を優先しようとする獣医師と自分の感情を優先する飼い主さんとの犬に対する思いの違いですね。

そして、犬に椎間板ヘルニアの治療をするならば、断然椎間板ヘルニアの手術ができる動物病院で治療をするべきです。その多くは手術を必要としなくても、椎間板ヘルニアの手術ができる動物病院では、病気に対する経験と知識量がかなり異なります。

手術をしないのであれば、手術ができない動物病院で治療をしても変わりがないとは思わないでください。椎間板ヘルニアの手術ができない獣医師は、手術が必要なタイミングも十分に理解していないことがあるからです。内科療法を漫然と進める傾向にあるかも知れません。

外科治療

内科治療によって改善がない場合や、グレード 5の場合に適応です。

基本的に背骨に穴を開けて行います。やや特殊な手術になると思います。できる獣医師がある程度限られます。この手術をしている動物病院は多くなってきているとは思いますが、それでも少ないと思いますよ。

私は基本的に片側椎弓切除術という手技で手術を行うことが多いですね。

犬の椎間板ヘルニアの内科治療についての追加です。

この治療では獣医業界的に、ステロイドは使うべきではないという風が吹いています。しかし、私の経験からですが、初期には使った方が圧倒的に状態に改善が良いですね。もちろん、使わずに慣例に倣ってやってみたこともたくさんありますが反応が悪いです。ステロイドは、適切に使うと、早期に犬を元気にできます。

椎間板ヘルニアの内科治療とステロイドは、いろいろな話があります。

まず、多くの獣医師が参考にする文献では、犬の椎間板ヘルニアHansen I型は、ステロイドを使っても使わなくても改善率に差がなかったとなっています。

さらには、薬として使うならば、ステロイドではない痛み止め、末梢神経障害性疼痛治療薬や抗てんかん薬を使って、強い痛みを緩和することはいいけれども、椎間板ヘルニアの症状である痛みを観察するときに、その痛みが改善された場合に、薬で改善したのか自然に改善したのか判断できなくなるということも言われます。

また、もっとも必要なことは、運動制限やケージレストなのだから、痛みが和らいでしまうと運動制限やケージレストが難しくなるという考えです。

私の考えでは、ちょっと違います。

例えると、インフルエンザになっても薬を使っても使わなくてもちゃんと治る。だから、薬を使うと、薬があったから治ったのか、なくても治ったのかがわからない。と、言っているように聞こえます。誰だって、早く治したくはないですかね?

そして、インフルエンザに感染したら、家でじっとしておくのがいいけど、薬を使って早くに楽にしてしまうと、家でじっとできなくなるから、良くない。

どうでしょうか。

何かの実験をしている訳ではなく、治療をしたいのだから、ちゃんと効果的な薬を使って早く楽にしてあげるのが良いと思います。その上で運動制限やケージレストをするのはどうでしょうか。