【猫の腎不全】ステージ分類と治療について獣医師が解説します。

猫の慢性腎不全とは?

慢性腎不全とは、多くは加齢に伴って始まって進行する腎臓障害です。治ることはなく、進行します。悪化します。進行の速さは、それぞれ個々に異なり、初めて気付いた時には残された時間があまりない猫もいますし、数年の長い間に渡って維持できることもあります。

治療はあるの?

何かしらの治療を行なった方が良いのですが、治療の内容は後述するステージによって推奨されるものがあります。治療を始めるにあたって、知っておいた方が良いことは、慢性腎不全は治ることがない病気であること、治療は時に長期にわたり、治療費がそれなりにかかってくるということです。つまり、治らないのに治療費が相当にかかることがあります。

治すことができない病気ですので、完治を目指すことはありません。しかし、良い状態をつくったり、維持したりすることができることが多いですね。私がみている猫では、もう3年も治療を続けいて、体調も良いという子がいます。

猫の慢性腎不全の症状は?

慢性腎不全の猫の症状は、食欲不振です。多くの猫はそれだけのことが多いです。ときには嘔吐がみられます。食べなくて、痩せてきて、尿毒症になれば嘔吐がみられ、時に痙攣発作が起こることもありますが、治療を継続している場合に、食欲不振以外の症状をみることは多くはありません。

最後は食べない日が続き、静かにお別れの日がきます。最後の日は、思いがけず早いこともあり、期待に応えてくれてかなり先送りできることもあります。

とは言え、早めに発見できれば、慢性腎不全の猫とは長く一緒にいることができます。

早期発見はとても大切

特に6歳を過ぎたら、せめて半年に1回は健康診断、血液検査、尿検査などやってあげてください。早めに病気に気付ければ、できることが違ってきます。例えば、何も症状がなく食欲もモリモリあるなら、食事療法も選択できます。しかし、食事を摂らなくなったという段階からでは、少なくとも食事療法はできません。食べないのですから。もし食事療法ができる食欲があるうちなら、数種類の腎臓に優しい療法食がありますので、好みのものも選んでもらうことができます。

猫の腎不全は、多くの飼い主さんが関わったり、関わることになる病気です。慢性腎不全は、3か月以上続く腎障害と定義されます。そして、慢性腎不全は、1から4のステージに分類されます。

このステージ分類は、慢性腎不全と診断され、その間に少なくとも2回測定された絶食時の血漿クレアチニン濃度を基にして行われます。

猫の慢性腎不全のステージ分類

ステージ1 血漿クレアチニン濃度 <1.6 (mg/dL) 非窒素血症(BUN正常値)

ステージ2 血漿クレアチニン濃度 1.6から2.8 (mg/dL) 非窒素血症から軽度腎性窒素血症

ステージ3 血漿クレアチニン濃度 2.9から5.0 (mg/dL) 軽度から中等度腎性窒素血症

ステージ4 血漿クレアチニン濃度 >5.0 (mg/dL) 末期腎不全

そして、猫の慢性腎不全を評価するのは、血漿クレアチニン濃度だけではありません。

尿検査で行う尿蛋白/クレアチニン比(UPC)と血圧測定です。蛋白尿や高血圧は、慢性腎不全ではいつでもみられます。

動物病院では、血圧計がないところがあります。もしかすると、多いかも知れません。慢性腎不全の猫を多く診察していても、血圧計がないと、慢性腎不全の猫の生涯にわたって必要な抗高血圧療法を詳細に管理することが難しくなります。

もし慢性腎不全で治療中で、血圧測定のお話がまだないようでしたら、かかりつけの先生にお尋ねくださいね。

猫の慢性腎不全のサブステージ、尿蛋白/クレアチニン比(UPC)

・蛋白尿ではない(NP) UPC 0から0.2

・ボーダーライン蛋白尿(BP) UPC 0.2から0.4

・蛋白尿(P) 0.4以上

猫の慢性腎不全のサブステージ、高血圧による末期臓器障害のリスク

収縮期血圧(mmHg)

・最小リスク(AP0) 130から150

・低リスク(AP1) 150から160

・中等度リスク(AP2) 160から180

・高リスク(AP3) 180から

ステージ分類ごとの治療基準

全ステージで、乳酸リンゲル液などの等張液で脱水の補正を行います。ときに、点滴は毎日でも必要なことがあります。お家で点滴ができる場合には、そうしていただくようにお勧めされるかも知れませんね。

ステージ1

脱水を補正しながら、カルシウムチャネル・ブロッカーとACEI(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)を与えます。

ステージ2

ステージ1の治療法に追加して、血漿リン濃度(IP)>4.5mg/dLであれば、食事性リン制限を始めます。食事性リン制限をしてもなお、血漿リン濃度が4.5mg/dLより高いようであれば、腸内リン吸着薬を使います。

そして、猫では慢性腎不全で低カリウム血症を伴うことがあるので、クエン酸カリウムを飲ませて補正します。

しかし、猫にこれらの薬を毎日与えることは、困難な場合がほとんどです。飼い主さんも、継続できる方は限られると思います。私は、継続できる薬のみ続けてもらうことが多いですね。その方が、飲めない薬を時々与えてもらうよりは確実ですから。

そして、ACEI(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)の中には、どうぶつが飲んだり食べたりしやすいように、フレバーが付いているものもあります。その場合、そのままでも飲んでくれる猫が多いですね。色々と工夫をしないと飲ませることが難しい薬が多いなか、そのまま手のひらに置いても食べてくれる子は少なくありません。

ステージ3

ここからは、食欲がなくなる猫が多くなります。したがって、食事療法や投薬が難しくなります。さらには、貧血がみられることがあるために、造血ホルモンなどの注射を1週間に1回くらいのペースで行うことがあります。(注射する量を変えて、1か月に1回という使い方もあります)

ステージ4

食欲不振が続きます。もし飼い主さんが望まれれば、鼻カテーテルや、食道瘻カテーテルなどの設置も検討します。これらは、見た目がかわいそうだからということで、希望される飼い主さんはほとんどありません。

ステージが進むに連れて、無理な延命は望まないと言われる飼い主さんが増えてきます。猫も飼い主さんも疲れてくるんですよね。そこまでとっても頑張って来られましたから、これ以上はなるべく猫と飼い主さんのストレスを減らしていかなければなりません。

できることをしながら、でも、ここまで頑張って向き合って来られた飼い主さんに、最後は何もできなかったとも思われるのは心苦しいですし、でも積極的に治療を進める段階ではありませんし。私はとにかく飼い主さんの声を大切にしながら、心地よい満足感を目指すことが多いですね。おだかやなお別れになるように、できるだけ早めに、予想する最後の時期をお伝えするように心がけています。

本当に本当に頑張ったのは猫です。力の限り生きて、生命というものがどれだけ強いのかを教えてくれます。そして、はかないものかも教えてくれます。

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