【犬の表在性細菌性毛包炎】皮膚の病気で最も多い細菌性膿皮症を獣医師が解説します。

犬の皮膚に、薄皮がちょこっとむけたような小さめの輪っか状のカサカサができたら、それは表皮小環と呼ばれる湿疹かも知れません。

犬の皮膚の病気で一番多いのが、細菌性膿皮症と呼ばれるものです。そして動物病院でも、この病気を診察しない日はありません。それくらいに多いです。しかも繰り返しますから、診察頻度が高くなります。

ほぼ決まった細菌によって引き起こされるもので、その細菌はStaphylococcus pseudintermedius (スタフィロコッカス シュードインターメディウス)と呼ばれるブドウ球菌です。では、この細菌はどこにいるものかと言いますと、犬の皮膚にもともといます。常在菌と呼ばれるものです。それがなぜこの皮膚の病気を作るのかは、まだわかっていないことが多いのです。

治療は、抗生物質を飲ませること、抗生物質を含んだ軟膏、そして抗菌性シャンプーです。抗生物質は、最低でも3週間は飲ませる必要があり、シャンプーは週に2-3回の頻度で行います。もちろん、治療期間に限ったことです。

この病気の再発は、犬の体質的なものに関係するとは思いますが、飼い主さんの投薬に対する姿勢も関わってくることがあります。つまり、3週間もの長い間犬に薬を与えたくないとか、犬がどうしても飲んでくれないとか、与え忘れたとか、何となく良くなったから薬を与えるのをやめてしまったとか、このようなことにも獣医師は頭を悩ますことがあります。私の場合には、多々あります。

しっかりと飲ませてみましょうか、などど言うと、この獣医師はとにかく抗生物質をたくさん飲ませるなどと言う方向に気持ちが向かう飼い主さんもいることは残念なことです。できるだけ繰り返させたくはないとく気持ちは、なかなか理解していただけない場合もあり、にも関わらずに、この獣医師には治せないのではないだろうかなどと思われることもあるようです。

まあ、気持ちを切り替えてまして。

この表在性細菌性毛包炎は多くの場合、痒みを伴います。毛包とは、いわゆる毛根の周囲組織です。そこに常在菌であるブドウ球菌が増殖することで、この表在性細菌性毛包炎が起こるのです。そして、この皮膚炎によって表皮小環と呼ばれる薄皮が剥がれたような輪っかができます。この表皮小環があれば、ほぼ表在性細菌性毛包炎だと考えてもいいくらいです。

ちょっと細かい話をしますね。

細菌が関係する病気の治療には、抗生物質を使うわけですが、今回の表在性細菌性毛包炎の場合、この病気を引き起こす細菌はほぼ特定されている訳です。そうなりますと、決まった薬、すなわち抗生物質があるのかと言いますと、まあ、あるんですよね。そして、国際的なガイドラインでは、第一選択薬という、まずはこれを使いましょうという薬があります。それは、第一世代セフェム系と呼ばれるもので、普通はセファレキシンという薬を使うのが一般的です。

しかし、表在性細菌性毛包炎を引き起こすブドウ球菌の中には、このセファレキシンが効かない細菌もいます。耐性菌という物です。そうなりますと、では他のどんな抗生物質を使ったらいいかと言いますと、先ほどのガイドラインにも次はこれっていう薬が出ているのですが、基本は細菌培養、薬剤感受性検査ということが必要です。これは、表在性細菌性毛包炎が起こっている皮膚の表皮小環から薄皮や小環の中央部などから滅菌した綿棒を使って細菌を取り、これを培養して増やします。そこに数種類の抗生物質を反応させて、どの薬が最近の増殖を抑えたかを調べるもので、これをやってから使う抗生物質を決めるのが基本中の基本です。

そしてシャンプーですが、飼い主さんの中には、とにかく何でも抗菌性シャンプーを使いたがる方があって、ときに苦笑したくなることがありますが、皮膚の表面には必ず細菌がある訳で、この細菌を完全に排除することはできませんから、使いどころには検討が必要です。
通常は、2-4%のクロルヘキシジン、過酸化ベンゾイル、乳酸エチルなどが入ったシャンプーを週に2-3回使うことが推奨されます。そして、シャンプーのときの注意点として、5ー10分間シャンプーを皮膚に接触させておくこととされますが、これには明確な根拠はありません。でも、すぐに流してしまうよりは効きそうですよね。

この病気は、抗生物質を使えばちゃんと治る訳ですが、それがなかなかできずに、病気を複雑にしたり、治らないという不満につながったりして飼い主さんも獣医師も、そして当然犬も困ってしまうことにうなるようです。

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