【犬の急性膵炎】救急!!獣医師が解説します。

犬の急性膵炎で見られる症状は、食欲不振、嘔吐、腹部痛です。そして下痢も見られます。

しかし、これらの症状は、急性膵炎ではなくてもよく見られますから、急性膵炎なのか違うのかは、見た目だけではなかなか判断できないかも知れません。

ただ、元気がなくなる犬が多いので、吐く回数がかなり多いとか、元気が無くなったとか、腹部痛もありますから、座ったままやその他痛みを我慢しているかのようなポーズを取ることがあり、いつもの様子とは違って見えることが多いですね。

急性膵炎が強く疑われる場合には、まだ確定的な検査結果が出ていなくても、入院管理をしながら早急に治療を開始することが大切です。急性膵炎は、重症化すると死亡する病気ですが、初期治療にうまく反応してくれれば、治ることも期待できるからです。はじめは救急治療が必要とは思えないような状態でも、急速に悪化して、その日のうちに死に至ることもありますので入院治療が原則です。残念ながら、入院したら必ず治る病気でもありません。飼い主さんや獣医師が最善を尽くしながら、そのまま亡くなってしまうこともあります。

犬の膵炎の危険因子、いわゆる急性膵炎の原因となりそうなものには、次のようなものがあります。

食事、薬、内分泌疾患(ホルモン異常)、その他、そして犬種によっても起こりやすさが違います。
それぞれを細かく見てみますね。

食事:高脂肪食(油を使って調理した食べ物で起こることもありまし、植物に使う肥料として油を含んだ物を食べても起こることがあります)、無分別な食事。私がみたことがあるのは、肥料として用意してあった油カスをお腹いっぱい食べてしまった犬がいまして、かなり重度の急性膵炎が起こりました。それ以外では、揚げ煎餅を食べて、膵酵素が跳ね上がった犬もいます。ちなみに、最近見たのは、植木鉢の土を食べた犬ですが、肥料が入っていたかも知れないとのお話でした。

薬:カルシウム製剤、L-アスパラギナーゼ、臭化カリウム、アザチオプリン、有機リン剤によって起こることがあります。当然ながら、これらの薬を長期に取りながら、何も起こらない犬の方が多いことも事実です。
カルシウム製剤は、カルシウム低下で使うことがありますが、健康状態が極端に悪くなければ、あまり使う薬ではありません。

L-アスパラギナーゼは、抗がん剤で、特にリンパ腫に使います。皮下注射をする薬です。この薬は、抗がん剤プログラムの比較的早い段階で使いますが、アレルギー症状が出ることはないとは言えませんが、膵炎が起こることは決して多くはないと思います。少なくとも、私にはL-アスパラギナーゼで膵炎が起こった犬を見た経験がありません。

臭化カリウムは、抗てんかん薬です。これも比較的安全な薬ですので、適切な量で使っていればそれほど心配するものではありません。
アザチオプリは、免疫抑制剤で、免疫の病気の犬に使います。例えば、免疫介在性溶血性貧血とか、免疫介在性血小板減少症とかですが、この薬を使う前には、ステロイドなどの薬をある程度使っていることが多く、それでも反応のない場合に使うことが多い薬です。

有機リン剤は、犬やヒトによって毒ですので、誤って接触したか口に入れてしまわない限り、問題はないのですが、中毒になると膵炎を含め、他の臓器にも異常が見られます。

内分泌疾患:これには、副腎皮質機能亢進症と呼ばれるクッシング症候群があり、腎臓の近くにある副腎という臓器からホルモンがたくさん出すぎてしまうという病気です。また、糖尿病でも起こりますが、糖尿病も膵炎も膵臓に起こるものとしては、起こる臓器は同じです。甲状腺機能低下症という病気でも起こりますが、すみません、経験不足なのか、数多くの甲状腺機能低下症の犬を診察していますが、膵炎を起こした犬はみたことがありません。甲状腺機能低下症から急性膵炎になる犬は、少なくとも少数派には違いありません。

その他には、高脂血症、肥満、外科手術、高カルシウム血症、炎症性腸疾患(IBD)などでも起こるとされます。

最後に犬の種類によって、起こりやすい犬がいまして、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリアを含むテリアには起こりやすいとされています。

いろいろと書きましたが、一番多いのは、食事によるものだと思いますね。
食べてはいけない物を食べてしまった時が多いのですが、その中には、ヒトは普通に食べる物でも犬には急性膵炎が起こる食べ物もありますから、不用意にヒトの食べ物を与えることは注意が必要かも知れません。

何の検査で膵炎の診断をするのでしょうか。



では、治療はどうするのでしょうか。

点滴、痛み止め、吐き気止め、絶食絶水と栄養療法、抗血栓療法などを行います。


まずは、嘔吐や下痢で水分を失ったり、炎症やもしかしたら微小血栓などで膵臓への循環が悪くなっていることが多いため、点滴は欠かせません。

痛みはそれぞれで、また、周りからはわかり辛いのですが、それでも急性膵炎の場合には痛みを緩和するための治療を行うことが勧められています。

吐き気どめには良く効く薬があるので、まずは注射して様子を見ますが、もしその注射でも反応が乏しく、吐き気が思うように管理できない場合には、また追加で別のお薬を使うことがあります。

絶食絶水は初期には必要ですが、できるだけ早い段階で食事と飲水を再開させるようにします。嘔吐が見られなくなってから、24時間もすれば食事を再開してみます。それでも嘔吐がなければ、少量づつの低脂肪食を与えながら、その量を増やしていきますが、もし途中で嘔吐が見られたらまた絶食にして様子を見ることもありますね。再度嘔吐が見られると、すぐに口からの栄養を開始することが難しくなるために、経腸栄養と言って鼻からチューブを使って腸に直接栄養を入れることも検討しなければなりません。

それ以外には、静脈点滴で栄養を入れることもありますね。

一旦吐き気が止まりましたら、とにかく膵臓に負荷をかけないように、低脂肪食を食べてもらって様子を見ます。再燃(再発)することも多いですし、慢性化して、慢性膵炎になることもあります。そうすると、慢性的に軟便になったり、その他の病気を併発することもあります。

急性膵炎には、早急な初期治療と慎重な食事管理が欠かせません。そして、食事管理は通常数か月は続けることになります。

この他には、抗血栓療法を行ったり、時に血漿輸血を行ったり、必要なことはそれぞれの症状によって異なります。

ときに急性膵炎に蛋白分解酵素阻害薬という物を使う動物病院があるかも知れませんが、これが有効だという報告は残念ながらほとんどありません。新しい治療を取り入れている動物病院であれば、多分この薬を使うことはありませんね。

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