動物病院で血糖値を測っている犬 【犬の糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシス】

糖尿病の犬に見られる症状

犬の糖尿病の初診では、ほとんどの犬がお水をたくさん飲むようになったという話を聞きます。この時に考える鑑別診断リストは、それほど多くはありません。

もちろん、水をたくさん飲むようになる病気は結構ありますが、犬の年齢や生活環境、既往歴などから、かなり絞り込まれます。

犬の糖尿病の症状は、たくさん水を飲み、たくさん尿が出ますし、たくさん食べるわりには、体重が減ります。糖尿病としての深刻な状態である糖尿病性ケトアシドーシスを発症していなければ、通常は元気も食欲もあります。

糖尿病と言われるくらいですので、尿中に糖が検出されなければ、糖尿病の症状は見られません。そして糖尿病に続いて起こる可能性がありものに、糖尿病性白内障や糖尿病性網膜症、そして糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害があります。

犬の糖尿病治療のためには、インスリン注射が欠かせません。

これは必ず必要です。

糖尿病の治療の目的は、糖尿病によって起こっている症状を改善することや、糖尿病性ケトアシドーシスに陥ることを防ぐこと、そして、糖尿病に続いて起こる病気を防ぐことです。

治療では必ずインスリン注射を使います。

飼い主さんの中には、インスリン注射ではなく食事療法はできないか、とか、血糖値を下げる薬は使えないかとか、そのような相談をされる方がありますが、残念ながらインスリン投与は避けられません。

動物病院では、血糖値が高い犬に対して、まず本当に糖尿病かを調べることになります。

犬の血糖値の正常範囲は、おおよそ80から140mg/dlくらいです。私が診察をする糖尿病の犬のは場合、初診の時にはほとんどの犬が400mg/dlを超えていて、600mg/dlを超えている犬も結構な割合でいます。

それだけで糖尿病とは判断せず、次には尿検査で尿糖を調べたり、空腹時に再度血糖値を測定して、初めの診察の時と同じくらいに高いのかをみたりします。

ここで大切なのが、尿検査でわかるケトン体です。

これが検出されると、糖尿病性ケトアシドーシスということになり、事態は深刻なものになります。糖尿病性ケトアシドーシスについては、また別の記事にしますね。

【糖尿病性ケトアシドーシス】救急!! 犬と猫の病気を獣医師が解説します。

糖尿病と診断したら、治療のためのインスリンを投与するわけですが、この注射するインスリンの量を決めるのが簡単ではありません。

動物病院では、何日間か入院管理などをして、どれくらいの量のインスリンを投与するかを決めます。インスリンにはいくつかの種類があり、どのインスリンを使うかは、犬次第というよりは、どちらかというと獣医師次第です。獣医師が使い慣れたものから選択することが多いですね。

ほとんどの場合、1日に2回のインスリン注射をすることになりますので、それぞれどれくらいの量で注射すれば良いかを決めるために検査を行います。

具体的には、まずだいたいの量を注射します。

体重あたり0.25から0.5単位というのが多くの場合です。

例えば、6kgの犬ですと、はじめに1.5単位から3単位のインスリンを打ってみます。

インスリンを注射するための注射器は、1単位という量ずつの目盛りがついていますので、1.5目盛りから3目盛りを注射することになります。

この辺りは、獣医師の経験によるものもありますし、犬の血糖値によっても違います。

本来140mg/dlくらいが上限の血糖値が600mg/dlを超えていたら、3目盛り注射すると思いますし、これが400mg/dlくらいなら、2目盛りくらいかも知れません。


 このように、注射をしてみたら、だいたい2から3時間ごとに採血をして血糖値を測定して、血糖値がどのような変化をするかをグラフにします。いわゆる血糖値曲線というものを作ります。

治療中の血糖値は、1日をとおして100mg/dlから300mg/dlのあたりにあるようにしたいので、ここを目指して、インスリンの量を決めることになります。

とは言え、1日に注射できるインスリンの回数は最大で2回ですから、少なかったなと思ったら、明日は少し増やしてみようとなります。

そのような訳ですので、数日の時間を経て最終的に注射するインスリン量が決まることになります。入院が必要なのは、このような理由からです。

もちろん、糖尿病性ケトアシドーシスの場合には、また違う意味で入院が必要で、この場合にはかなり深刻な治療をしていかなければなりません。

現在はまた別の血糖値測定装置が使えますので、毎回採血しなくても良い場合があります。
FreeStyle リブレと呼ばれるものです。

ただ、私も自分で試して使ってみたのですが、血糖値が低めに出てしまうために、使用には注意が必要というのが結論です。

また、時にインスリン抵抗性といって、インスリンが効きにくい他の病気を持っていることもあります。この場合には、何の病気がインスリンの効果を邪魔しているのかを診断しないといけません。

では、最終的に糖尿病の犬の寿命はどうなっているのでしょうか。

これは血糖値が安定しやすいか、安定しないかによっても、また合併症があるかないかによっても変わりますが、多くは発症から数か月での死亡率が高く、それ以降も生存できていれば、比較的長期にわたって良い予後が期待できます。

私がみる糖尿病の犬の飼い主さんは、それなりに疲れていらっしゃいますね。

まあ、そうですよね。

毎日2回も注射しなければならないし、しなければ具合が悪くなってしまいますからね。

それでも元気な犬を見ると、飼い主さんの頑張りが同時に見える気がします。